よく耳にする"並行在来線" について
みなさんは、並行在来線という言葉をご存知でしょうか?その意味は、文字通り新幹線と並行する在来線です。
そもそも鉄道には、JRと私鉄があり、JRには、新幹線と在来線の2種類存在します。
新幹線の開業によって、それまで新幹線の役割を担っていた在来線は、一定数の利用客を失います。これは、これまでの在来線の移動よりも、早く快適に目的地に行ける新幹線の方が、利用者が多くなるからです。
新幹線開業により、新幹線と並行する在来線では、利用者減少の問題が発生するわけですが、実際に発生する影響を以下にまとめました。
新幹線開業によって起こる問題
利用客を一定数失う並行在来線は、JR経営存続と、第3セクター会社経営移管と廃線のいずれかに直面します。
並行在来線を経営してきたJRにとって、赤字は避けたい道です。新幹線が開業しても、並行在来線を利用する通勤・通学客が多ければ、その区間の収入が経営できる範囲内に収まり、JRは経営を続けます。しかし、極端に利用客が少なくなる場合、その区間の収入が経営できる範囲を超え、赤字になるため、JRは経営から外したくなります。この時、JRの経営を引き継ぐ新たな会社が必要になります。それが第3セクターです。第3セクターとは、第1セクター(公企業)や第2セクター(私企業)が共同で立ち上げた企業のことです。
新幹線開業により、並行在来線が第3セクター化された事例を以下に載せました。
1997年10月 長野新幹線開業により、信越本線 軽井沢駅ー篠ノ井駅間がしなの鉄道に経営移管
2002年12月 東北新幹線開業により、東北本線 目時駅ー八戸駅間が青い森鉄道に経営移管
2002年12月 東北新幹線開業により、東北本線 盛岡駅ー目時駅間がIGRいわて銀河鉄道に経営移管
2004年03月 九州新幹線開業により、鹿児島本線 八代駅ー川内駅間が肥薩おれんじ鉄道に経営移管
2015年03月 北陸新幹線開業により、信越本線 長野駅ー妙高高原駅間がしなの鉄道に経営移管
2015年03月 北陸新幹線開業により、信越本線 妙高高原駅ー直江津駅間および
北陸線 越中宮崎駅ー直江津駅間がえちごトキめき鉄道に経営移管
2015年03月 北陸新幹線開業により、北陸線 倶利伽羅駅ー越中宮崎駅間があいの風とやま鉄道に経営移管
2015年03月 北陸新幹線開業により、北陸線 金沢駅ー倶利伽羅駅間がIRいしかわ鉄道に経営移管
2016年03月 北海道新幹線開業により、江差線 五稜郭駅ー木古内駅間が道南いさりび鉄道に経営移管
そして、2023年の北陸新幹線敦賀延伸に伴い、並行する北陸線の金沢駅ー敦賀駅間が、第3セクター会社へ経営移管されることが既に決定しています。
また、廃線された事例もあります。1997年の長野新幹線開業時には、信越線 横川駅ー軽井沢駅間が廃線されてしまいました。これにより、その区間を利用していた利用客は、バスを利用することになります。しかし、移動時間の増大や、運行本数の減少、極端な運賃の増加など、鉄道利用よりも大きな不便を被ることになりました。
実際に、時刻表の路線図などを見ると、信越線の区間が3つに分かれていることが分かります。これは、新幹線開業により、信越線が分裂したことによるものです。
※右図の赤線が信越線
3セク化による影響
大企業であるJRだからこそ行えた安価な運賃価格は、3セク化になることで値上げされることが多くなります。また、コスト削減の観点から、運行本数の減便や、無人駅化、ワンマン化など、多くの変化が起こります。
また、その区間を走っていた特急列車などが廃止されることも多く、それにより観光客の減少なども発生します。
新幹線の開業により、新幹線の駅がある都市の経済効果は高くなる一方、新幹線の駅がなく、3セク化により行きにくくなった都市では、逆に経済効果は下がるのです。
3セク化になりやすい環境
新幹線が開業したことで、すべての並行在来線が3セク化になってきた訳ではありません。東海道新幹線や山陽新幹線の開業時には、並行在来線である東海道線や山陽線は、3セク化にはなりませんでした。これは、沿線の人口が多く、一定数の利用客があるためです。
路線の利用者数には、2種類あります。1つは、乗降客数です。これは、その路線内の駅で乗り降りする利用者の数です。
そして、もう一つは、通過利用者数です。これは、その路線内の駅は利用せず、他路線間の通過移動として利用する利用者の数です。3セク化になりやすい路線は、乗降客数は低いが、通過利用者数は多いことが特徴です。
通過利用者の多くは、その路線を走る特急列車の利用者であるため、新幹線の開業によりその役割を担っていた特急列車が廃止されれば、急激に利用者数が下がるのです。
3セク化になりにくくするには、乗降客数の数を多くすることが有効なのです。